普段何気なく行っている食事ですが、
栄養学においても、ひとがどのように食べ物を噛み、またどのように飲み込んでいるかについて科学的に解明されています。
ここでは咀しゃく(咀嚼)と嚥下についての概要を解説しています。
咀嚼・嚥下ともに食べ物を摂る上で当たり前におこなわれていますが、この過程を理解しているのと理解していないのでは、
学習した栄養学を普段の食事に応用する上でかなり差が出るので今回で学習していきましょう。
咀しゃく(咀嚼)とは「噛んで食塊を作る」こと
咀しゃく(咀嚼)とは「噛んで食塊を作る」ことです。
具体的に咀嚼するということは、下顎を上下に動かして歯や舌を使って食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて食べ物を塊状にするまでの一連運動をいいます。
この食べ物の塊状のものを食塊と言います。
この咀嚼運動がスムーズに行われるように、歯や顎や舌の筋肉が働くだけでなくいろいろな器官が連携しています。
また、咀嚼には唾液が重要な要素を担っています。
咀嚼するときに唾液腺から唾液が分泌され、食べ物を塊状に形成するときのまとめ役となります。
口の中が乾いているとむせてしまうのは、十分な唾液がなく塊をつくれていないことも原因です。
よって食事の際には水分をしっかり摂り口の中を潤すことで咀嚼をよりスムーズにおこなうことができます。
嚥下とは「食塊を飲み込む」こと
嚥下とは「食塊を飲み込む」ことです。
具体的に嚥下は、咀嚼してできた食塊を喉から食道を通って胃まで送る過程を指します。
その過程のなかでは、食塊を単に運搬するだけでなく、食塊が喉から食道を通るときに微粒子などを絡めながら移動し胃まで運ぶため、一種の掃除のような働きもあります。
この働きによって喉の奥には食道と隣り合うように位置する気管(呼吸した空気を体内に送る管)に不要な粒子などが入らないようにします。
嚥下はまず、形成した食塊を舌の運動で咽頭まで送ることから始まります。
咽頭に食塊が送られたら、食道へ食塊を移動させます。
このとき、食道の隣にある気道に誤って食塊が入らないようにする必要があります。
普段は呼吸した空気を体内に入れるために気道の入口が開いています。なので、食塊を通すときは気道の入口を咽頭蓋で塞ぎ、隣の食道へ食塊を誘導します。
この動きは意識しなくてもおこなわれる不随意運動で「嚥下反射」と呼ばれています。
なお、食塊が気管に入ってしまうことでムセることがありますが、これは嚥下反射がうまく行われなかったためで、誤って気管に入った食塊を吐き出すためにムセます。
そして、食道に送られた食塊は、重力や蠕動運動によって胃まで送られます。.
咀嚼から嚥下までの流れ
食事を咀嚼するときから嚥下するまでは、一連の動作でおこなわれます。
この一連の動作は以下の5つの段階に分けられます。
- ①先行期
- ②準備期(咀嚼期)
- ③口腔期
- ④咽頭期
- ⑤食道期
この5段階はとても重要なのでぜひ覚えておいてください。
各段階の詳細は上記で咀嚼と嚥下の解説をした内容なので、
以下では咀嚼や嚥下の動きが、各段階のどこに当てはまるのかをまとめとして解説します。
①先行期
先行期は食事を視覚や嗅覚などで認識し、食べ物が安全なものか、食べても大丈夫なものかを判断し、食事を箸などで掴んで口まで運ぶまでの段階です。
食事を摂る始めに目や鼻、手などで食べ物を感覚的に捉え、咀嚼・嚥下のために情報を収集します。
②準備期(咀嚼期)
準備期(咀嚼期)は口に入れた食べ物を噛み、口の中で食塊を形成する段階です。
咀嚼はすべてこの準備期に当てはまるので、準備期をそのまま咀嚼期とも呼びます。
食べ物を噛むとき、下顎の運動が十分に食べ物を捉えるため舌と頬が食べ物を保持します。 そのとき食べ物と誤って舌を噛まないように、口の中にはいろいろな場所に食べ物を感知する器官が配置されています。
その器官によって、例えば食べ物の固さがどのくらいなのか、食べ物の大きさや形がどうかなどなどを感知します。
この情報を咀嚼を指揮する中枢である脳の脳幹に送り、脳幹が下顎や舌などに運動の指示を送ります。
このように各器官の連携で、ひとは噛むタイミングや強さなどを意識的におこなわなくてもスムーズに咀嚼をおこなうことができます。
③口腔期
口腔期は口で形成した食べ物を喉まで送る段階で、嚥下の始めのステップです。
咀嚼してできた食塊が嚥下できるまでに形成されると、口唇を閉じ舌を口の上に押し付けながら、食塊を舌の奥側へ運びます。
その後舌の奥側を動かして食塊を咽頭に送ります。
このとき、食塊が間違って鼻の方へ行かないように、軟口蓋という部位が咽頭壁を押し付けて、鼻咽腔を閉ぎます。
嚥下のうち、口腔期は意識的におこなう随意運動でおこなわれます。
なお、口腔期は随意運動でありながら、咀嚼と同様にあまり意識しなくてもスムーズにおこなわれます。
④咽頭期
咽頭期は食塊が咽頭を通る段階です。
食塊が咽頭に送られると、下の根元部分から咽頭までが運動し、そお運動の圧で食塊を食道まで送ります。
このとき嚥下反射が起きて咽頭蓋が気管を塞ぎ、食べ物が誤って気管に流れないようにします。
また、咽頭期以降は意識しなくておこなう不随意運動です。
⑤食道期
食道期は食べ物が食道を通って胃まで運ばれる段階です。
食道には狭窄部という管の大きさが極端に狭い部分があります。この狭窄部があることで食塊が逆流することを防いでいます。
嚥下するときは、この狭窄部が一時的に拡がり食塊が通ります。食塊が通った後は再び狭窄部が閉じます。
食道期も咽頭期と同じく不随意運動で、食塊は食道の蠕動運動と重力によって下降し胃に送られます。なので、寝ながら食事を摂ると重力がうまく働かず、食塊が逆流しやすくなります。
以上が咀嚼と嚥下の一連の流れです。
なお嚥下は、口に入れたものを1回で全て嚥下しないこともあり、咀嚼でできた食塊の一部を嚥下して、また咀嚼して一部を嚥下して、といったように咀嚼と嚥下を繰り返します。
まとめ
○咀嚼は食べ物を噛み砕き食塊を形成して嚥下しやすくすること。
○嚥下は食塊を飲み込き胃まで送ること。
○咀嚼・嚥下は「先行期」、「準備期(咀嚼期)」、「口腔期」、「咽頭期」、「食道期」の5つの段階を経ておこなわれる。
以上、咀嚼と嚥下について概要を解説しました。
冒頭でも述べていますが、この咀嚼・嚥下の過程を理解しておくことで、食事が摂れない方への食事支援や、運動後でもスムーズに摂れる栄養補給方法など、どんな食べる方への食事でも応用することができます。
咀嚼・嚥下の解説は別ページでもおこないますので併せてよく理解しておきましょう。