「認知症の親が食事を食べてくれません。どうしたらいいか困っています。」
「食事を介助しても口を開けてくれません。無理やり食べ物を口に入れるのも良くないし、何かヒントはないですか。」
「食べることを拒否する認知症の方に適した食事の方法はありますか。」
認知症の方にみられる食事の拒否は、家族や職員など支援する側にとって、とてもショックに感じると思います。
食べてもらいたいのに「食べたくない」と言われたり、口を開けてくれなかったりすると、食事を準備することも辛くなるしイライラしたりドッと疲れを感じることもあるでしょう。
でも、決して自分を責める必要はありませんし、自分の作る食事が間違っていると否定する必要もないです。
実際に介護施設で働く管理栄養士も、食事を拒否される認知症の方への食事は簡単ではないです。
それでも認知症の方へ食事を摂っていただきたい気持ちは同じですし、いろいろと工夫しながら食事をひとくちでも摂ってもらえるように支援しています。
ここでは介護施設で管理栄養士として働いている経験から、食事を拒否する認知症の方への食事ポイントを紹介しています。
このページがなにかヒントになって、食事を拒否する認知症の方への食事支援が少しでも楽に感じてもらえたら幸いです。
認知症の方が食事拒否するときの食事ポイント
①食事を拒否することを責めない
まず第一に食事を拒否することを責めないようにします。
認知症は本人がなりたくてなっているわけではないですし、食事を拒否することも認知症の症状だから嫌がらせで拒否しているのではないと認識しましょう。
血圧が高い人に、なんで血圧を下げないんだと責めても自分で念じて血圧を下げることはできません。血圧を下げたいならば薬を飲んだり運動したりと何かをすることで結果血圧がさがります。
認知症の方が食事を拒否する場合も同じように、何で食べてくれないんだと責めても解決はできないでしょう。
むしろ食事拒否を責めることで認知症の方も支援する側もイライラしてしまうことになるので、より食事がすすみません。
まずは「食事拒否は認知症のひとつの症状」として考えて、食事拒否そのものを否定しないようにしましょう。
くり返しますが、食事をしてもらえないことで自分を責めないでください。
このページをご覧になっているということは、あなたは食事を食べてほしいと思いなにかヒントを探していると思います。
そのような介護の気持ちこそ、あなたが十分に介護に向き合っている証拠ですし、その想いは介護されている方に伝わっています。
決して自分を責めないでください。管理栄養士として切に願います。
②食べない原因を探る
認知症の方がなぜ食事を拒否してしまうのか、本人に聞いても正確に答えてくれることは少ないです。
でも、食事を拒否するのにはなにか原因があり、その原因に沿った食事の支援をする方針を大切にします。
たとえば、夜寝られず日中もしっかりと起きていられないので、食欲がなくて食事を拒否されているかもしれません。もしくは、便秘が続いていてお腹に違和感を感じて食事に気が向かないのかもしれません。
ひとによるので一概には言えませんが、認知症の方がなにかに固執していることで食事に意識が向かない状態で食事を提供され、食べることを認知できなくて食事を拒否することもあります。
その場合はまず夜ゆっくり寝ていただけるようにする、便秘を改善するといったように、基の原因を解決できるようなケアをおこなってみましょう。
なにかのきっかけで食事が食べられるようになることもあるので、食事にこだわらず広い視野で食事の支援をおこないましょう。
③信頼関係を大切にする
認知症の方は、もしかしたら、自分を家族と認識できないかもしれません。自分を敵だと言われているかもしれないです。
とてもつらいと感じると思います。
ですが、あなたを認知することが難しくなっていても、人と人との信頼や安心感は認知症の方に対しても大切にしてください。
「食事を召し上がってください」の言葉をどれだけ丁寧に言っても、認知症の方にとっては命令を感じるかもしれません。ですが、どこか安心できる、信頼できると感じる方の言葉なら、完全に理解できなくても耳を傾けてくれるかもしれません。
認知症だから何を言っても理解されない、と相手を尊重しない態度は相手に伝わります。
食事も生活の一部として考え、食事を食べる前の生活の中から挨拶したり、話かけたり、一緒に散歩したりと一緒にいる安心感を共有することで、食事も安心して食べていただくことにつながります。
私の経験では、食事に限らずすべてのケアを拒否されていた方が、かかわりを少しずつ作っていくことで、食事を摂ってくれるようになったといったこともあります。
相手が認知症だからといって背けてしまわずに、食事以外のところでも信頼関係をつくっていくようにかかわりを大切にしましょう。
④食べられるものをひとつずつ見つけていく
食事を拒否する認知症の方の懸念は食事が摂れないことによる栄養不足、つまり低栄養です。
特に高齢の場合は食事の食べる量が少なかったり、栄養を吸収する機能が低下していたりと、年齢とともに低栄養のリスクは高まっているので、
食事を拒否して食べないとなるとより低栄養のリスクは高まってしまいます。
そのときは無理に食事にこだわらず、本人の好きな食べ物をひとつひとつ探して準備します。
饅頭が好きかもしれないし、ドーナツが好きかもしれないし、食べないよりはお菓子でも何か食べた方がエネルギーを身体に取り込むことができるので、
食事でなくとも「食べることの楽しさ」をもう一度認識してもらうように支援します。
その「食べることの楽しさ」を味わうことがきっかけとなって食事が少しずつ食べられるようになったという経験もあるので、
ご家族などから、本人の好きなものを聞きながら試しにご提供してみてください。
認知症の方への食事支援に正解はない
認知症といってもさまざまなものがあるように、認知症の方の状態はひとりひとり違いますし、その分ケアの仕方も変わってきます。
食事支援も同じで、ひとりひとり個別にみながらケアするものであって正解はありません。
場合によっては、無理に食事を摂らなくても本人の思うようにしてやってほしいという家族の意向もあります。必ず栄養を十分に摂らないといけないと無理やりに食事を摂ってもらうことの方が不適切となることもあります。
重要なことは認知症の方本人のこれからの生活をいかに本人の望むように支援していくかであって、ご家族とよく話し合って食事の方針を決めていくことが求められます。
ただ、その中で食事を拒否することは低栄養の恐れがある、低栄養は予後を悪くすることにつながるといったことは頭に入れて、そのうえで食事をどれだけ食べていただくかを決めていきましょう。
何度もくりかえしますが、認知症の方にとっての生活の意向を尊重し、食事拒否を責めないようにしましょう。
そのことが支援をする自分の否定にもならずに、結果的に心に余裕を持ってより安心感のある支援につながりますし、その安心感が信頼関係につながり食事を食べていただくきっかけになるかもしれません。
以上、「食事を拒否する認知症の方への食事ポイント」について紹介しました。
食事を拒否されることは支援する側にとってつらく感じます。ですが、自分を責める必要なありません。
ケアを受ける認知症の方にとって良い食事となるよう工夫することに意味があるので、このページで紹介した内容もヒントに無理なく食事を支援してみてください。