「認知症の親がごはんを出しても食べようとしません。」
「食事を介助しても口を開けずに、食べることを忘れているような様子なのですが、どのような食事がいいでしょうか。」
「夫が認知症で食事をしないので栄養が摂れずに心配です。食べてもらえるようにするにはなにか方法はありますか。」
認知症によって食べものを認識することが難しくなったり、食べること自体を忘れてしまったりと、食事が進まなくなることがあります。
実際に食べることを忘れてしまっている様子をみると、段々と生活ができなくなり弱っていくようで不安を感じると思います。
確かに食事を摂らないと栄養が身体に入らないため低栄養となる恐れもあります。ですが、たとえ認知症で自分の意思が伝えられなくても、食べる楽しさや、誰かと食べることの喜びなどを感じてもらえる支援が、認知症の方にとってこれからの人生を穏やかに過ごしてもらうことにつながると考えています。
栄養を摂らせようと無理矢理に食事を口に入れないといけないと負担を感じる必要はありません。
ここでは、食事をしようとしなかったり食事を忘れていたりする認知症の方へ、介護施設で働く管理栄養士がどのような食事の支援をしているかを紹介しています。
なにかのヒントになって少しでも気が楽になってもらえれば幸いです。
認知症の方が「食事はいらない」と言葉や態度で示されて食事を拒否する場合は、食事のアプローチを変えています。このページとは別に以下の記事にまとめているのでこちらをご参考ください。
介護現場でおこなっている 食事をしない・忘れる認知症の方への食事支援例
①食べものの認識を促す
食事をしない、食事を忘れたりする場合は、食べものを認識するのに時間がかかって結果的に食事として認識できていないことがあります。
食事を準備するときに、「今日は○○ですよ」と料理名を伝えたり、食事を介助するときに「しょうゆを使っています」などと味を伝えたりすることで、目だけでなく耳でも食事を認識してもらえるよう支援します。
また、野菜を包丁で切る音やフライパンで炒める音など、調理をしていることが耳から伝わったり、炊飯器から出るごはんの香りやみそ汁の香りなど、鼻から食事を伝えたりと、口だけでなくいろいろな感覚を刺激して食事の認識を支援します。
普段自分がしているように、食事を目、耳、鼻、口で感じられるように食べものの認識を促しましょう。
②温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供する
料理は適温のものを食べると最もおいしいと感じますが、目の前にある食べる前の料理でも適温であるとおいしそうと感じます。
少しでも食事を食べたいと思ってもらえるように、その料理にあった温度で温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供するようにしましょう。
ただし、認知症の場合、料理が熱くてもそれを訴えることができないこともあります。口の中がやけどしないように、自分が適切だと感じても、料理を食べる側にとって熱すぎないように注意しておきましょう。
③今までの食生活に合わせて1日3食規則正しく食事を摂る
食事を認識しづらくなる要因として、自分が食事の時間と思っていないのに食事が出てきたり、お腹が空いていないのに食事をすすめられたりと、自分の状況についての理解が追いつかないことが挙げられます。
具体的に、若いときから1日3食規則的に食事を摂る食生活が自分の習慣となっていると、現在認知症でご飯を食べないからといって、1日2回の食事にすると、今までの食習慣と違う形で食事を摂るようになり混乱を招いてしまいます。
食事を食べようとしなかったり、食事を忘れてしまったりしていても、1日3食規則的に食事を提供するようにして、混乱なく食事が摂れるように支援しましょう。
④「いつもと同じ」環境を整える
1日3食の継続と同じですが、食事が「いつもと同じ」環境で摂ることを支援することが重要です。
いつもと同じ食事であると、慣れ親しんだ習慣で安心感があり、不要な困惑なく食事に向き合うことができます。
食事の環境を整える工夫として、食事を介助するときも食べる方にとって慣れている食器やはし・スプーンを使う、いつもと同じテーブルやいすに座る、昔ラジオを聞きながら食事をしていたのならラジオをつけてみるなど、使う物や目に入るもの、耳から聞こえるものが安堵することにつながるようにしてみましょう。
できるだけ食事以外のことで不安にならないように、安らぐ食環境を提供する支援も食事を摂ってもらうための方法です。
ただし、今まで使ってきたものがかえって食べにくさに影響がある場合は、今の状態にあったものを選択しましょう。
⑤食べないことを否定しない
食事は楽しいもので、食べることを楽しみに生きている方も多いと思いますが、認知症で表現できにくくても、楽しく食事したいのは同じです。
確かにせっかく準備した料理を食べてくれなかったり、時間がかかったりするとイライラしてしまいます。
それはあなたが食べる方を大切に思っている裏返しでもあります。
とはいえ、認知症の方がたべないことを否定する言葉や態度はしないようにしましょう。
食事を認識することが難しいわけであって、料理そのものを拒否しているとは限りません。たとえ食事に時間がかかっても、食事をおいしいと感じて食べられているかもしれません。
認知症の方は自分の感情をうまく表現することが難しくなっていることがありますが、こちらの言葉や態度は伝わっていますし、むしろこちらが思っている以上に過剰に受け止められることもあります。
食事を楽しく、穏やかに食べてもらえるように、返答がなくても声をかけながら食事をしてみましょう。
ときには一緒に食事して楽しさを共有するのも良いです。
支援する側のゆとりを大切に
認知症の方に対する支援や介護は、支援する側の心に余裕があってはじめて支援や介護の負担を受け止めることができます。
支援する側に余裕がないと、ストレスを感じても逃げられず、認知症の方に対して否定的な感情になってしまい、その否定的に思ってしまう自分が嫌になってより余裕がなくなる、といったように悪循環を招いてしまします。
認知症といってもひとそれぞれ状態が違うので、それをすべて支援する側ひとりで抱えることはそもそも困難です。
現在、各市町村には介護を専門とする部署があり、介護保険等を取り扱っているので、介護のことで困ったら相談してみましょう。
相談の内容によっては介護を専門職がサポートしてくれることもあり、ひとりですべて抱えなくても認知症の方の介護を援助してもらえることもあります。
支援する側がストレスで潰れないように、自分のできる範囲でゆとりをもって、難しいところは相談しながら認知症の方を支援しましょう。
少しの量でも栄養を摂れるように おすすめの栄養補助食品とは
食事を摂ることが難しくなると、栄養が十分に摂れているか心配になると思います。
それに加え、栄養を摂ろうにも食事を認知できなくて、一度にたくさん食べることができないこともあります。
そのような場合は、栄養補助食品を活用することも低栄養予防に効果的です。
栄養補助食品の中には、食べる量が少なくても十分にエネルギーやたんぱく質など高齢の方に大切な栄養素を摂ることができる少量高カロリー食品があります。
具体的なおすすめの栄養補助食品は以下にまとめているので、参考にしてみてください。
以上、「食事をしない、食事を忘れる認知症の方への食事支援」について紹介しました。
認知症の方のとっても、支援する側にとってもより負担のない食事となるようこのページを参考にしてみてください。