第38回 管理栄養士国家試験
次の文を読み「176」、「177」、「178」に答えよ。
K産科病院に勤務する管理栄養士である。 患者は、36 歳、初産婦、会社員。現在、妊娠 8 週目。激しい嘔吐を繰り返すようになり、食事がほとんど食べられなくなったため入院となった。 身長 165 cm、体重 56 kg、妊娠前体重 59 kg。血圧 110/70 mmHg。空腹時の血液検査値は、クレアチニン 0.8 mg/dL、尿素窒素 30 mg/dL、血糖 80 mg/dL。たんぱく尿(-)、尿中ケトン体(2+)。
176 入院当日の栄養投与方法として、最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) 中心静脈栄養 (2) 末梢静脈栄養 (3) 経鼻胃管による経腸栄養 (4) 流動食による経口栄養
177 入院 1 週間後には、軽い吐き気はあるものの、激しい嘔吐はおさまり退院となった。退院後の食事のアドバイスである。最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) 食事をしっかり食べて、間食は控えましょう。 (2) 職場で決まった時間に食べられない分は、自宅で食べるようにしましょう。 (3) 食事は、食べられるときに食べましょう。少量ずつ数回に分けても良いですよ。 (4) 3食ともに、主食、主菜、副菜を揃えた食事にしましょう。
178 退院後、順調に回復した。時々、つわりの症状があるものの、体重は 60 kg となり、現在は妊娠 12 週目となった。本人は、自身の体重の増え方が少ないことを気にして、栄養相談のために来院した。表は、本人が持参した食事メモである。患者への助言として、最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) 主食の量が足りませんね。1回量を増やしましょう。 (2) 果物はお好きではないですか。1日に1回果物を摂りましょう。 (3) 乳製品が少ないですね。間食に牛乳を取り入れましょう。 (4) まだ12週目ですから、体重の増え方は、このくらいで大丈夫ですよ。今の食生活を続けましょう。
正解 176:(2) 177:(3) 178:(4)
〔解説〕 妊娠期栄養管理に関する問題です。対象者の現状や血液検査値から問題を特定し、適切な栄養投与方法ならびに食事へのアドバイスを選択します。
まず、対象者のデータから問題を特定します。
身長 165 cm 体重 56 kg 妊娠前体重 59 kg 現BMI 20.6 kg/m2 (普通体重) 体重減少が見られる 血圧 110/70 mmHg 異常なし(120/80 mmHg未満のため) 現在、妊娠 8 週目 激しい嘔吐を繰り返すようになり、食事がほとんど食べられなくなった 悪阻が考えられる 空腹時の血液検査値 ・クレアチニン 0.8 mg/dL ・尿素窒素 30 mg/dL ・血糖 80 mg/dL ・クレアチニン:ほぼ正常(基準値:0.47~0.79 mg/dL) ・尿素窒素:高い(基準値:8~20 mg/dL) ・血糖:正常(基準値:~92 mg/dL) たんぱく尿(-) 尿中ケトン体(2+) 悪阻が考えられる
上記から、対象者の問題は悪阻と判断できます。(たんぱく尿(-)やクレアチニンの顕著でないデータから、腎機能低下よりも悪阻が主な問題と捉えました)
176 栄養投与方法を選択する場合、まずは以下の手順を検討するのが一般的です。
①口から十分な栄養を摂取できるか? はい:経口を選択 いいえ:②に進む (経口可だが十分な栄養が取れない場合は②も検討する) ②腸が機能しているか? はい:経腸栄養を選択 いいえ:③に進む (経腸可だが十分な栄養が取れない場合は③も検討する) ③以下に該当するか? ❶経口摂取や経管栄養は可能であるが、必要量に満たない ❷栄養状態が比較的良好で、早期に経口栄養が再開できると見込まれる ❸腸閉塞や胃腸炎で一時的に経口摂取ができないものの、短期間で再開できると見込まれる はい:抹消静脈栄養 いいえ:中心静脈栄養 参照:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版
問題文より上記を検討すると、 ①:対象者は「激しい嘔吐を繰り返す」ため口からの摂取は難しく、”いいえ”を選択します。 ②:問題文に腸機能の低下に関する記述はありませんが、こちらも「激しい嘔吐を繰り返す」ことから難しいと判断し、”いいえ”を選択します。 経腸栄養摂取もいくつかの種類がありますが、最初の選択肢として経鼻栄養が挙がります。この場合嘔吐の症状がある場合不適であることからも判断できます。また対象者は悪阻の症状のため、胃瘻などの選択は考えにくいです。よって③を検討します。 ③:①②の検討結果から❶は該当します。 対象者は妊娠に伴う悪阻と考えられるため、症状は一時的で早期に経口栄養が再開できる可能性が高いとして❷も該当します。 ❸も同様に妊娠に伴う悪阻と考えられるため、短期間で経口摂取が再開できる可能性が高いとして該当すると判断します。よって”はい”を選択します。
以上から(2)が最も適切です。
(1)は、対象者の症状は一時的なものの可能性が高いため、不適です。入院当日の判断としては末梢静脈栄養の方が適しています。 (2)は、問題文に「激しい嘔吐を繰り返す」とあり、不適です。 (4)は、問題文に「激しい嘔吐を繰り返す」とあり、不適です。
177 問題文より、対象者の経過は徐々に安定してきており良好傾向であること、ただし今も軽い吐き気があることがわかります。そのため、食事は少量ずつ再開し経過を見ていくことが望ましいと判断します。特に対象者の症状から、急激な食事量の増加は不適です。 これを踏まえて選択肢を見ると、(3)の「食べられるときに食べましょう」や「少量ずつ数回に分けて」という記述から、食事を少量ずつ再開するようアドバイスしています。
よって(3)が最も適切です。
(1)は、「食事をしっかり食べて」という記述から少量ずつ再開する方針と異なり、不適です。また間食について指摘していることから体重コントロール時などに対するアドバイスのため異なると判断します。 (2)は、食事時間に関するアドバイスであり、不適です。 (4)は、栄養バランスに関するアドバイスであり、不適です。妊娠期において栄養バランスを整えることは重要ですが、対象者の現状からまずは食べられるものから食べるよう支援することが優先です。
178 問題文より、対象者の経過は良好ですが、一方で「本人は、自身の体重の増え方が少ないことを気にして」とあり、体重の増加を念頭とする食事支援が問われています。 体重の増加を見ると入院時体重の 56 kg から 60 kg まで増加しており、また妊娠前体重 59 kg から比較すると 1 kg 増加していることがわかります。対象者のBMIから「妊娠全期間を通しての推奨体重増加量」は7~12kgとあり、現在は妊娠 12 週目であることを踏まえると経過良好と判断できます。このことから、食事内容の見直しが急務ではなく継続して経過を見るのが望ましいです。
よって(4)が最も適切です。
参照:妊娠期の至適体重増加チャート
(1)は、食事メモから3食で主食を摂っており、対象者の身体状況や「時々、つわりの症状がある」との記述から、食事量を増やす必要はないと判断でき、不適です。 (2)は、果物から摂取できる栄養素の充足を考慮する必要はなく、不適です。オレンジジュースやレタス、プチトマトの記載があり食物繊維やビタミン等の顕著な摂取不足はないと判断できます。 (3)は、乳製品から摂取できる栄養素の充足を考慮する必要はなく、不適です。ヨーグルトやシュークリームの記載がありたんぱく質やカルシウム等の顕著な摂取不足はないと判断できます。