第38回 管理栄養士国家試験
次の文を読み「171」、「172」、「173」に答えよ。
K社健康保険組合の管理栄養士である。
対象者は、50 歳、既婚男性、喫煙習慣なし。職場の健診で、特定保健指導の積極的支援を2年連続受けることになった。
前年の積極的支援では、週末の運動によって、 6か月後に体重が6kg減少した。 しかし、その2か月後に部署異動があり、接待での飲酒機会が週1回以上となった。 さらに、家での飲酒も毎日、缶ビール2本(1本200kcal)に増えた。ビール以外の飲酒はない。部署異動から4か月後に健診を受けたところ、昨年の健診時とほぼ同じ体重になっていた。
今年の健診結果は、身長172cm、体重80kg、BMI 27.0kg/m2、運動は実施していない。
171
今年の初回面談で、対象者は初めに「体重が戻った理由は自分でも分かっています。運動をすれば今回も減らせると思います。」と話した。これに対する応答である。最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) ご自分で行動目標を立てて、ご自分でチェックをするのが良さそうですね。
(2) 何をすればよいか分かっていらっしゃるようですね。それを行う上で、不安や心配はありますか。
(3) 戻った体重はほとんど脂肪です。今回は、前回のようには体重は減りませんよ。
(4) 運動よりも食事の方が大切です。食生活の改善方法を一緒に考えましょう。
172
目標体重について、対象者から、最終的に前回達成した体重まで減らしたいという希望もあり、まず「3か月で ー3kg」と設定した。目標達成のための計画である。 最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) 家で飲む缶ビールを1本に減らす。
(2) 家で飲む缶ビールをやめる。
(3) 接待時の飲酒量を控えめにして、3メッツの運動を週2時間行う。
(4) 週2日は休肝日とし、4メッツの運動を週4時間行う。
173
初回面談から1か月後、継続支援の面談を行ったところ、対象者は計画どおり取り組めていた。体重は初回面談時から変化していない。この時の支援である。 最も適切なのはどれか。 1 つ選べ。
(1) 現在の取組状況の問題点を指摘し、改善策を話し合う。
(2) 現在の取組に対して、今後期待される成果を説明する。
(3) 現在の取組を称賛した上で、取組を継続するよう励ます。
(4) 現在の取組を称賛した上で、行動目標の追加を話し合う。
正解 171:(2) 172:(4) 173:(4)
解説:この問題は栄養指導における管理栄養士の基本的な心構えや対象者への応答姿勢についての問い、また対象者に沿った具体的な目標達成計画を立てる問いです。
171
対象者の経験や今回の会話の内容を見ると、「運動は実施していない」との問題文や、「体重が戻った理由は自分でも分かっています。」という発言から体重増加の原因を自身で分析できていることがわかります。
また、「前年の積極的支援では、週末の運動によって、 6か月後に体重が6kg減少した。」との経験や「運動をすれば今回も減らせると思います。」との発言から、どうすれば改善できるかについて自覚があると捉えることができます。
このため、対象者の現状把握に理解を示し、さらに対象者の不安を解消しようとする(2)が最も適切です。
(1)は、行動目標の作成から評価までを対象者のみで実施させる発言であり不適です。
(3)は、対象者の発言を否定し、改善意欲を削ぐことに繋がる発言であり不適です。
(4)は、「食生活の改善方法を一緒に考えましょう。」との発言は行動目標の作成を支援する意味で適切の様ですが、その前の「運動よりも食事の方が大切です。」と対象者の過去の経験や改善意欲を考慮できていないようにみられ、最適とは言えないです。
172
目標達成のための計画を作成するにあたり、問題文から対象者の体重が増加した原因を整理します。問題文には以前実施していた「運動」の習慣がなくなったこと、また前年の積極的支援と比べ飲酒量が増加したことが明記されています。このことを考慮すると「運動目標」と「アルコール摂取目標」の2点を目標達成のための計画に取り入れることが重要と判断します。これを踏まえて選択肢を見ると、運動と飲酒の2点を目標に挙げている(3)と(4)のどちらかが正解ではないかと絞られます。
それぞれの選択肢について「運動目標」に関する記述を見ると、(3)は週6メッツ・時、(4)は週16メッツ・時と計算できます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 成人版」によると以下の記載があります。
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
推奨事項
・強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行うことを推奨する。
https://www.mhlw.go.jp/content/001195866.pdf
このことから(4)の方がより推奨される目標に近いと言えます。
(推奨されるメッツ・時は満たしてはいませんが、対象者の背景や経緯から(4)の運動量の方がより適していると判断しました)
次に、それぞれの選択肢の「アルコール摂取目標」に関する記述に関して、厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」によると以下の記載があります。
健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
(3)健康に配慮した飲酒の仕方等について
⑤一週間のうち、飲酒をしない日を設ける(毎日飲み続けるといった継続しての飲酒を避ける)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
このことから、(4)は「週2日は休肝日とし」とあり、ガイドラインに準じた目標計画を作成しているとして(4)が最も適切と判断されます。
(1)は、飲酒量を減らす目標のみで運動目標がないため不適です。
(2)は、同じく飲酒量を減らす目標のみで運動目標がないこと、また対象者の飲酒習慣を考慮するとまずは休肝日を設ける等少しずつ飲酒量を減らすほうが望ましいため不適です。
173
「対象者は計画どおり取り組めていた。」とあり対象者が作成した目標行動を着実に実施していることがわかります。また一方で「体重は初回面談時から変化していない。」とあり、目標の修正が必要であることがわかります。
このことから、対象者の行動実施に対する肯定的な評価と、目標の改善を促している(4)が最も適切です。
(1) は、取組状況に問題がないにもかかわらず、不要な取組状況の問題点への指摘がされているため不適です。
(2) は、成果の説明のみで改善への支援が行われていないため不適です。
(3) は、目標の修正がされていないため不適です。